2025年6月25日、国土交通省(MLIT)は日本郵便の一般貨物自動車運送事業許可を取り消しました。
これにより郵便局間の幹線輸送などに用いていた1トン超トラック/バン約2,500台が5年間運行できない事態が発生。
さらに、届け出制の軽四輪車(軽バン等)約3万2,000台についても安全確保命令が出され、追加処分の可能性が残っています。

1. そもそも「点呼」って何?――問題の背景
点呼は運行管理者とドライバーが酒気帯び・体調・車両異常の有無を対面で確認し、その結果を帳簿に残す法定手続きです。
今回の特別監査で、点呼未実施や記録簿の虚偽記載が全国73局で確認され、関東運輸局だけで違反点数197点(取り消し基準81点)に達しました。
運行管理者211人の資格も同時に剥奪されています。
2. 行政処分の内訳
処分内容 |
影響範囲 |
期間 |
一般貨物自動車運送事業許可の取消 |
1t超車両 約2,500台 |
最短5年間再取得不可 |
第二種貨物利用運送事業の事業停止 |
幹線混載・共同輸送 |
6か月 |
運行管理者資格取り消し |
211名 |
恒久 |
軽貨物事業への安全確保命令 |
軽バン等 約3.2万台 |
是正完了まで |
MLITは会見で「輸送の安全を揺るがす極めて遺憾な事態」とコメントしています。
3. 郵便・ゆうパック業務は止まるのか?
代替輸送の手当て
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約6割の幹線輸送を 佐川急便・トナミHD・西濃運輸 など大手に委託済み。
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残り4割は自社保有の軽四輪3.2万台+鉄道・航空便でカバー。
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自社大型トラックを使わない運行体制は6月24日の段階で試験稼働を始め、郵便局間の接続ルートを再構築済み。
リスクと負荷
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委託費用の急増は郵便料金・ゆうパック送料の値上げ要因。
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7月のお中元シーズンは荷量が跳ね上がり、局地的な遅延が懸念。
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代替輸送を受ける側も人員・車両調整が必要で、業界全体の余力を圧迫。
4. 物流「2024年問題」と重なるダブルパンチ
2024年4月からトラックドライバーの時間外労働は年間960時間上限に規制され、輸送能力の不足が指摘されています。
政府試算では「対策ゼロなら2030年に輸送力が34%不足」との予測も。そこに日本郵便2,500台の一斉離脱が重なり、運送キャパシティの“押し出し”が加速するとみられます。
5. 日本郵便の再発防止ロードマップ
同社は公式リリースで、再発防止を以下の4本柱で推進すると表明しています。
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意識改革
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ガバナンス強化
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点呼DX(デジタル化)
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モニタリング
6. 安全管理とガバナンス――他業界への教訓
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点呼は法定の“命綱”であり、記録改ざんは即アウト。
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免許取り消しは「企業の運転免許停止」と同義。継続性リスクは株主・取引先にも波及。
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バス・タクシー・自治体公用車など、同じ仕組みを持つ事業体は自社点呼フローの棚卸しが急務。
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「紙→クラウド」「抽出監査→全件監視」の組み合わせが今後のスタンダードになる。
7. 今後の注目ポイント
観点 |
注目時期 |
具体的チェック項目 |
追加処分の有無 |
2025年夏 |
軽四輪の監査結果とMLIT発表 |
コスト転嫁 |
2025年秋~2026年 |
郵便料金・ゆうパック基本運賃の改定 |
再発防止策の実効性 |
2026年以降 |
点呼DXの全局展開率と事故発生件数 |
免許再取得 |
2030年夏以降 |
再申請の可否を判断するMLIT審査 |
8. まとめ――「運べて当たり前」をアップデート
日本郵便の車両2,500台が市場から一気に消えたのは、点呼という基本動作を軽視した必然の結果です。
物流2024年問題と重なったことで、運送能力のひっ迫が改めて可視化されました。
”安全と持続性を優先する発想に切り替えない限り、誰もが「明日届くはずの荷物が届かない」リスクを負います。”
消費者は置き配・宅配ロッカーを活用して再配達を減らし、事業者はリードタイムを現実的に設定する――そんな小さな行動が、物流インフラの“延命措置”になります。
今こそ社会全体で「届くことを当たり前と思わない」文化へアップデートする時です。
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