【ニュース】座間男女9人殺害事件──発覚から白石隆浩死刑囚の刑執行まで8年の全記録
1 死刑執行という最終章
2025年6月27日午前、東京拘置所で白石隆浩死刑囚(34)が刑を執行されました。
死刑の執行は2022年7月以来で、およそ3年ぶり。鈴木馨祐法務大臣の就任後は初となり、法務省は「極めて悪質で重大な事件」と執行理由を説明しています。
今回の執行で刑事手続きは完結しましたが、事件が社会に残した課題――SNSの危険性や若者の孤立――はなお現在進行形です。
2 事件の概要――わずか2か月で9人を奪った連続殺人
白石死刑囚は2017年8月から10月にかけ、神奈川県座間市のワンルームアパートに自殺願望を持つ若者を次々に誘い込み、計9人を殺害しました。
被害者は15~26歳の女性8人と男性1人。犯行後は遺体を切断し、クーラーボックスやポリ袋に詰めて遺棄・隠匿したとされています。
判決は「金銭と性的欲望を満たすための身勝手な犯行で、犯罪史上まれに見る悪質さ」と断罪しました。
3 加害者の素顔と転落の軌跡
白石死刑囚は三重県出身。
高校卒業後に神奈川へ移り、風俗スカウトなど職を転々とした末に、職業安定法違反で執行猶予判決を受けた直後に事件を起こしました。
幼少期は“おとなしい子”と評されながら、20代で「金がすべて」と語るようになり、ネット上では“首吊り士”など不穏なハンドルネームも使用していました。
裁判では精神障害の有無も争われましたが、鑑定医は「完全な責任能力あり」と証言し、弁護側の主張は退けられました。
4 SNSを悪用した巧妙な誘い出し
被害者は全員「死にたい」「助けて」などの投稿をTwitter(現X)に書き込んでいました。
白石死刑囚は複数アカウントで自殺志願者を検索し、「死ぬ前に悩みを聞くよ」「一緒に死のう」とDMを送信。信頼を得たのち、待ち合わせ場所に現れた被害者を自室へ連れ込み犯行に及びました。
この“捕食パターン”は短期間でエスカレートし、最後の1か月で6人が犠牲になったと捜査当局は説明しています。
5 突破口は一人の兄の“執念”
最後の被害者となった女性の兄は、妹が失踪した直後にTwitterのログイン履歴を調べ、やり取り相手のハンドルネームを特定しました。
兄がSNSで情報提供を呼びかけたところ協力者が見つかり、警視庁がその協力者を使って白石死刑囚を誘い出して尾行。これがアパートへの踏み込みと遺体発見につながりました。
家族のデジタルリテラシーが事件解決のカギを握った稀有な例と言えます。
6 “13㎡の凶行現場”──アパートに残された惨状
室内には大小のクーラーボックス、衣装ケース、70袋を超えるポリ袋が積み上げられていました。
遺体切断用のノコギリやロープのほか、脱臭機と消臭剤が複数設置され、外部に異臭が漏れないよう細工されていたと裁判で明らかになりました。
捜査員は後日談として「これほど組織的な遺体隠匿を個人が短期間で行った例は記憶にない」と語っています。
7 裁判員裁判と主な争点
2020年9月から始まった裁判員裁判は計24回の公判が開かれ、
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弁護側は「被害者は承諾のうえ自殺の補助を求めた」として承諾殺人罪を主張
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検察側は「快楽と金銭目的の強盗・強制性交殺人」として死刑を求刑
という構図でした。
同年12月15日、東京地裁立川支部は死刑を宣告。「承諾はなく、計画的かつ極めて残虐」と判断。2021年1月5日に本人が控訴を取り下げ、刑は即日確定しました。
8 確定から執行までの4年半
死刑確定後、白石死刑囚は収容先の東京拘置所で通常の処遇を受けながらも、面会した弁護士に「判決は受け入れている」と語っていたと報じられています。
刑の執行は確定から4年半後、法務大臣の命令書が発令された当日に告知されました。死刑制度のあり方をめぐる議論が冷めやらぬ中での執行となりました。
9 社会に残した衝撃――SNSと自殺対策
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Twitter社の対応
事件を受け、2017年11月に「自殺助長の禁止」を利用規約に明記し、違反アカウントの凍結を強化しました。 -
政府の動き
厚生労働省はSNS相談窓口を24時間365日化し、LINEやチャットで専門員とつながれる体制を整備。相談件数は年30万件を超えています。 -
教育現場
文科省は2022年度から高校の情報科で「ネット上の自殺リスクと相談先」を扱う教材を配布し、教員研修に組み込みました。
事件は「匿名空間での孤立」がいかに深刻な被害を生むかを可視化し、SNS企業・行政・学校が連携するモデルケースづくりを後押ししました。
10 私たちにできる三つの防波堤
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孤立サインの“早期発見”
家族や友人の投稿に「死にたい」「消えたい」が見えたら、遠慮なく声を掛け、専門窓口へつなぎましょう。 -
安全設定と情報共有
XやInstagramには「不適切なDMを制限する」設定があります。若年層には設定方法を教え合う文化が必要です。 -
相談ハードルを下げる場づくり
学校や職場の保健室・カウンセラーに「匿名メッセージ箱」やチャット窓口を設置し、悩みを可視化する仕組みが有効です。
11 まとめ──9つの命を無駄にしないために
座間事件は、インターネットと孤立が交差した先にある最悪のシナリオを突き付けました。
白石死刑囚の刑は執行されましたが、被害者遺族への支援と、同じ手口を許さない社会的なセーフティネットの構築はこれからが本番です。
「誰かとつながりたい」と発信した若者が、犯罪者ではなく支援者に出会える社会づくり――それこそが9人の命を悼む確かな行動と言えるでしょう。
主要参考文献・報道一覧
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朝日新聞デジタル「座間事件の白石隆浩死刑囚に刑を執行」2025-06-27
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毎日新聞「白石死刑囚の刑を執行 座間9人殺害事件」2025-06-27
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朝日新聞デジタル「座間9人殺害事件とは」2025-06-27
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朝日新聞デジタル「判決詳報」2020-12-15
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Daily Sports Online「兄がTwitterで妹を追跡し逮捕に協力」2017-11-02
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認定NPO法人資料「事件発覚のきっかけ」2020-03-01
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週刊文春オンライン裁判ルポ 2020-11-03
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厚生労働省公式サイト「SNS相談窓口一覧」
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Wikipedia「座間9人殺害事件」(最終閲覧 2025-06-27)
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時事ドットコム「自殺助長の禁止明記=ツイッター社」2017-11-07
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